その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7

その8

私が初めてプードルという犬を知ったのは、今から50年以上も前に見たハリウッド映画でした。映画のタイトルも出演者の名前も憶えていませんが、ニューヨークのダウンタウンを行く女優さんが、プードルに首輪をつけ“颯爽と歩くシーン”が印象的な映画でした。その時、プードルという犬が“やたら身体が大きくて背が高いこと”と、もう一つは“あの奇妙奇天烈なプードルカット”に大変驚いたものです。2歳を迎えた頃のパディントンは一段と身体つきが大きく育っていて、体重は4kgを超え体高は30cm近くあったのではないかと思います。詰まり、彼はトイプードルという犬種の中では可なり大きい部類に属しており、ミニチュアプードルといっても可笑しくない体型だったように思います。

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プードルカットは似合わない?

最近では、あの“伝統的なプードルカット”を見掛けることは殆どありません。元来プードルという犬種は『水猟犬(ウォーター・レトリーバー)』だったことから、カモ猟などで獲物を捕獲するための、『ユニフォーム』みたいなものだったそうです。所が、今ではプードルが“水で身体を冷やすこと”など無くなったため、すっかり無用の長物となったのかも知れません。因みに、パディントンは子犬の頃、一度だけお風呂に浸かって“大暴れした苦い経験”がありましたが、若しかしたら“水猟犬のDNA”は引き継いでおらず、ひょっとして『犬掻き』もできなかったのかも知れません。プードルカットを見なくなった理由は定かではありませんが、私は何となくパディントンにはプードルカットは似合わないように思っていました。その思いは妻と娘も一緒だったようで、パディントンのカットは何時も全身を短く刈り込んだスタイルとしていました。ただ、トリマーさんの強い拘りだったようで、耳と尻尾だけはフワフワした“プードルカットの面影”を残していました。

巨大なドッグラン

2歳頃のパディントンは、妻が考え出した10コースくらいある散歩コースを熟知していたようで、リードをぐいぐい引っ張ることやリードの端を噛む仕草も殆どなかったようです。しかし、偶(たま)にしか散歩に行かない私の場合は、リードを咥えて引っ張ることがしばしばありました。パディントンにして見たら、散歩コースに不慣れな私に気を遣い“エスコートしていた”のかも知れません。私の勤務先には、野球場が2面ほどとれる広い芝生のグランドがありました。そろそろ“パディントンの床屋さん”に行く日が近付いたので、彼を洗濯する前に“グランドを走らせて見よう”と考え、妻と一緒に出かけました。パディントンは、これ程の“巨大なドッグラン”で遊ぶのは初めてなので、一体どんな反応をするのか興味がありました。車から降りてグランドを目指して歩き始めたら、急に尻尾をプルプル振るわせて妻が持っていたリードをぐいぐい引っ張り始めました。グランドには私たち以外は誰もいないで、パディントンに独占的使用権が与えられていました。グランドのほぼ中央付近まで進み妻がリードを手放したら、徐(おもむろ)にリードを咥えて一目散にグランドの端まで逃避行です。私が追いかけると彼は逃げ回り近付けば遠ざかり、と丸で鬼ごっこの様に楽しく遊びました。ドッグランで遊んだ後は、我が家に帰って恒例の洗濯です。シャンプーとリンスですっかりと汚れを落としたら、ドライヤーを掛けながらのブラッシングです。延べ1時間掛かりの大仕事ですから、彼は鬼ごっこと相俟ってとても疲れたのだと思います。ブラッシングが終わった後、彼は余程疲れたのかソファーの上のクッションに頭を乗せ、気持ちよさそうに熟睡してしまいました。

野生の目覚め!

パディントンが巨大なドッグランで遊んだ2~3週間後の休みの日ことでした。私が朝食を終えて居間のソファーで新聞を読んでいると、パディントンが何となくそわそわしながらソファーの周囲をグルグル回り始めました。暫くすると彼は私の前で“お座りポーズ”を取ったので、新聞を置き彼を膝の上に抱き上げました。すると、じっと私の顔を覗き込みながら突然立ち上がり、遠慮がちに私の顔を舐めたのです。私に対してそんな行動をとることは滅多にないことなので、咄嗟に何かおねだりをしているのだと気が付きましたが、私には何をおねだりしているのか判りません。妻にそのことを伝えると、きっと“遊びに連れていけ!”とおねだりしているのよとの返事です。妻に“会社のグランドに行ってくる”と告げて、パディントンと車で出掛けました。会社までは15分ほどですが彼には丸で行き先が判っているようで、車に乗ったとたんに“尻尾をプルプル”振り通しでした。グランドが見えてきたらもう“居ても立っても居られない”様子で、余り吠えたことのない彼は突然吠え出す有様です。車のトランクに入れてあったテニスボールを持ってグランドへ一目散です。ボール遊びにはリードが邪魔だと思い、予めハーネスも一緒に取り外しスタンバイです。テニスボールを20~30m先に放り投げるや否や、パディントンは物凄いダッシュ力でボールに飛び掛かり、丸で“ラグビー選手のセービング”のような恰好でボールを身体全体で取り押さえます。彼は捕まえたボールを口に咥え私の足元まで小走りに来て、首を振って加えたボールを投げ返します。何回かボールを放り投げているうちに気が付いたのですが、彼は放り投げられた直後にボールの落下点を予測し、ほぼ直線的なルートを辿って走っているのです。また、トップスピードに到達するまでの走り方は、丸でチーターかピューマと見紛(まが)うほど、“前脚と後脚が一直性になる”ように延ばして走ります。私はこの体験を通して、パディントンには間違いなく『猟犬』としての血が流れており、ボールを追いかけることで“野生の本能が目覚めた”のではないかと感じました。

むすび

普段の生活ではパディントンの能力に気付くことはありませんが、2歳を過ぎた頃に経験したボール遊びは、私にとって彼の隠れた能力を知る良い出来事でした。そういえば札幌に帰省した時、パディントンが雪の野原を逃げ回る姿を見た今は亡き父が、このワンコは“雪ウサギみたいだった”と言った言葉を思い出します。