その1
その2
その3

その4

私たち家族が住んでいる地域は、東京や横浜などと比べるとやや暖かいものの、やはり1月末から2月中旬頃までは寒さが厳しい日もあります。我が家にパディントンがやってきた年は、2月中旬に1週間くらい連続して底冷えのする寒い日が続きました。パディントンの寝床は、居間の片隅に設(しつら)えた毛布布団でしたが、妻の話によると寒い日の朝、居間のフローリングが時々濡れていることがあったとのことでした。勿論パディントン用のトイレは用意していましたが、殆ど使われた形跡がありません。夜が寒いから仕方がないとは思いましたが、先行きのことを考えるとやはり何らかの『オシッコ対策』が必要と考えましたが、さりとて中々名案が思い付きませんでした。そんな中、パディントン自らが“とっておきの名案”を考え出したのです。

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川の字作戦

底冷えのする夜半の出来事でした。私の顔が“生暖かくて湿ったもの”に触れました。寝ぼけ眼(まなこ)で恐々薄目を開けると、私の枕元で正体不明の白い塊が目に入ってきました。咄嗟のことで何が起こったのか判らず、慌てて飛び起きたところそこにはパディントンが“お座りの姿勢”で佇んでいました。私が目を覚ましたことを確認するや否や、悠然と私の寝床に首を突っ込み勝手に侵入してきて横になってしまいました。一度味を占めたら止められないのは“人も犬も一緒”のようで、次の夜からは“顔舐めの儀式を省略”し布団の中に潜りこんできました。我が家では、2階の部屋の間仕切りは、全て“引き戸式の建具”を使用していました。詰まり、パディントンが私たちの寝室に来るためには、2か所の関門(引き戸)を“自力で突破”しなければなりませんが、私には“犬が引き戸を開けること”がどうしても信じられませんでした。そこで、私は休みの日にそのことを確かめようと考え、再現実験を試みることにしました。パディントンを和室に措いたまま2枚の引き戸を締め、私が和室に移動して様子を見た訳です。結果は、何度繰り返しても“引き戸を開ける”ことはありませんでした。私は、きっと“息子か娘が手助けしているのだろう”と結論付けました。実験を終えて暫くしてから、私が“パディントンお散歩に行こう”と声を掛けたところ、彼は“待っていました”とばかり一目散に居間の引き戸の所に飛んで行き、あろうことか引き戸の端に前足の爪を引っ掛け、少し隙間が出来たところに自分の鼻先を押し付け、ものの見事に引き戸を開け放ちました。

僕は羊じゃないよ!?

我が家にパディントンがやってきて初めての春を迎え、玄関に面した道路にも“ピカピカの1年生”が往来するようになりました。ある日の昼過ぎに花壇の手入れをしていた妻に、1人の男の子が“おばちゃんの家にどうして羊がいるの?”と聞かれたそうです。妻は咄嗟に何のことか判らず“羊ってどれのこと?”と聞き返しところ、男の子が指さした2階の出窓でパディントンが下の様子を窺っていたそうです。妻は思わず吹き出して、“あれは羊じゃなくて子犬だよ”と答えたところ、男の子は全く腑に落ちていない様子で“ふーん?”といてそのまま立ち去ったそうです。その頃のパディントンは身体も随分大きくなりましたが、それにもまして体毛が伸び放題だったので可なり大きく見えたのかも知れません。妻は小まめにブラッシングをしていたのですが、遠目には“薄汚れて灰色掛かっていた”ことは否めません。妻から羊の話を聞いた時、男の子がパディントンを見て“羊を想像した”ことが妙に可笑しかったことを記憶しています。

初めての床屋さん

羊の話を聞いた1か月くらい後、パディントンは“初めての床屋(トリミング)”に行きました。妻がトリマーさんに“どんなスタイルにカットしますか”と聞かれたそうですが、元々動物嫌いの妻には“犬のスタイル”には殆ど興味がなかったようです。妻には“羊に見えないように!”との思いがあったようで、兎に角“できるだけ短くカットして下さい”とだけ告げて、床屋さんから帰ってきたそうです。私が会社から帰った時は、勿論パディントンも家に帰っていました。その頃のパディントンは、私が帰ると玄関の三和土(たたき)で“お座りポーズで迎える”のがお決まりの行動パターンでした。その日玄関のドアを開けた瞬間、パディントンの身体が“半分くらいに縮まった”ように見えて驚きました。遅まきながら、男の子が見間違うほど体毛で“膨れ上がって大きく見えた”のだと気付かされました。そんなことがあって暫く経った日の夕食の時、件(くだん)の男の子が妻の顔を見て“おばちゃん、やっぱり子犬だったんだね!”と声を掛けてくれたそうです。

むすび

パディントンは初めてトリミングを経験したことで、めでたく“羊からトイプードルに変身する”ことができました。また、トリミングによって均整の取れた骨格が鮮明となり、殊に“すんなりと伸びた脚線美(?)”が一層トイプードルらしさを引き出しました。これは恐らく、我が家の変則的な居住構造によって、幼い時から『階段昇降』で足腰が鍛えられたことが大きいのでしょう。

その5