その1:出会いから別れまで


その2:子犬の頃の思い出

妻は、大の動物嫌いです。いや、嫌いといより“怖いというのが正しい表現”かも知れません。その原因は“前世の記憶”なのか、それとも“現世の体験”なのは確認したことはありませんが、兎に角、動物を近くで見るだけでも怖いのです。そんな妻が犬を飼うことを承知したのは、手のひらに乗るくらいの犬だったこともあるでしょうが、半年ほど前まで一緒に暮らしていた長男が“就職して家を出てしまった”ことが最大の理由でした。詰まり、娘が母親の寂しさを紛らわすために考えた出した作戦”だったのです。その作戦が見事に的中し、パディントンが家に来てから妻は随分明るく元気になりました。

スポンサーリンク

お迎えの日のこと

その日は、11月下旬のとてもお天気の良い日でした。待ちに待った『トイプードル』を引き取る日がやってきました。といっても、ペットショップで予約してから高々2~3日のことですから少々大げさかも知れませんが、妻には“初めて生んだ自分の子供”を手にするような思いだったのかも知れません。さて、その日は丁度食料品の買い出しをする日だったので、子犬を引き取った後はそのままスーパーに直行する予定でした。ペットショップから私が子犬を小脇に抱えて駐車場まで行き、運転するため子犬を妻に手渡ししたところ、“怖いから嫌だわ!”と妻が宣(のたま)ったのです。あれだけ楽しみにしていたのに、信じられない妻の一言に暫し唖然としたものです。兎に角、強制的に妻の膝の上に子犬を乗せて買い物に行ったのですが、車の中で妻は“できるだけ自分から遠ざけよう”と手を突っ張っている様子が、何とも言えないほど滑稽に見えたことを今でも鮮明に思い出されます。

家族の仲間入り

子犬がやってきたことで、我が家はまた元通りの“5人暮らし”ならぬ“4人と1匹暮らし”に戻りました。詰まり、彼にとっては新しい『お父さん』、『お母さん』、『お兄ちゃん(二男』、『お姉ちゃん(長女)』ができた訳です。
当然のことかも知れませんが、彼がやってきたその日から我が家は“俄(にわ)かに騒然とした日々”が始まりました。それもその筈、犬を飼うことに関しては家族全員が“正真正銘の素人集団”なので、子犬の一挙手一投足に注目が集まって、ちょっとした仕草を見ては“あーじゃない、こうーじゃない”の意見が飛び交います。といっても、勿論これだという正解がある訳ではありません。そうこうしている内、やがて1週間も過ぎる頃には段々と子犬の注目度も下火になり、併せて一番長時間接している“お母さんに任せよう!”という暗黙の了解も醸成され、自然と元の平穏な日々が戻って来ました。

僕の名前はパディントン

さて、我が家に子犬がやってきた当座は皆が『ワンコ』と呼んでいましたが、幾ら何でもその名前では“子犬も立つ瀬”がありません。しかし、何故か家族の中では、積極的に“名前を付けよう”という雰囲気はありませんでした。そこで“子犬を飼おう”と言い出した娘に“ワンコの名前考えた?”と水を向けたところ、娘から“お父さんが名前を考えればいいじゃん!”との返事がありました。
その頃、ワンコは生後2か月余り経っていたので、全身はかなり毛むくじゃらでとても“トイプードルの子犬”とは言えない容貌をしていました。娘とワンコの名前のことでやり取りをした数日後、遅くなって帰った私が炬燵で一人食事をしていた時でした。居間で転寝(うたたね)をしていたワンコがむっくりと起き上がり、私の方に“よろよろした歩き方”で近づいてきました。その様子を見ていて私は“シロクマの子供に似ているな”と感じたものでした。
食事の後、一休みしてから湯船に浸かっている時、不意にイギリス童話の『熊のパディントン』のことが思い浮かびました。この童話は、娘が幼稚園時代に好きだったお話で、寝物語によく読んで聞かせたものでした。つい先ほどワンコを見ていて『シロクマ』を連想したので、その繋がりで記憶が蘇ったものと思いますが、瞬時にワンコの名前を『パディントン』にしようと決ました。翌朝、娘と妻にそのことを伝えたところ、“じゃー、そうしよう!”と満場一致で正式決定の運びとなった訳です。

むすび

我が家にやってきてから2か月余りして、やっと僕の名前が『パディントン』に決まりました。その頃には、パディントンもすっかり家族の一員として溶け込み、少しずつ存在感をアピールし始めてきました。しかし、まだまだ子供ですから、これから先も初めての経験が沢山待っています。